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家族性高コレステロール血症の患者様へ

家族性高コレステロール血症(FH)の患者様へ
――“いま”スタチンを始めることで、将来の心筋梗塞をほぼ避けられる時代です――

 

生まれつき高いコレステロールは「時間との勝負」

家族性高コレステロール血症(Familial Hipercolesterolemia:FH)ではLDLコレステロール(悪玉)が子どもの頃から常に高いため、動脈硬化の時計が早回りで進みます。しかし、この時計は薬でほぼ止められることがわかっています。オランダでFHの子ども214人にプラバスタチンを投与し20年追跡した研究では、39歳時点の心血管イベント率がわずか1%。同世代で治療を受けていなかった親世代は26%に達していたことから、早期治療の差は歴然でした(NEJM)。

「できるだけ若く始めるほど血管が守られる」

より若いうちに内服を始めるほど血管がしなやかに保たれることも示されています。思春期前後(平均12歳)でスタチンを開始した子どもたちは、その後4年半の追跡で頸動脈の壁(IMT)が実質的に厚くならなかっただけでなく、開始年齢が1歳若いごとにIMTがさらに薄かったという解析もあります (Circulation)。

小児でも安全?――20年以上の検証結果

「成長やホルモンに影響しないの?」という疑問に対しては、プラバスタチンを2年間投与した小児のランダム化比較試験が答えをくれています。LDL は平均24%低下、頸動脈はむしろ薄くなり、身長・体重・思春期の進み方・肝機能・筋肉酵素のいずれにも有害な変化は見られませんでした(JAMA)。20年後のフォローアップでも副作用で服薬をやめたのは1.5%にすぎず、安全性は長期にわたり確認されています。

成人が後から飲み始めても意味がある?

もちろん「もう大人になってしまったから手遅れ」というわけではありません。英国 Simon Broome レジスターでは、スタチンが普及した1990年代以降、FH患者の冠動脈疾患死亡が約30~50%低下し、一次予防(心臓病の既往がない人)では一般人と同等レベルにまで改善しました 。オランダ2400例の研究でも、スタチン治療群は未治療群に比べ冠動脈イベントが76%減少し(ハザード比 0.24)、心筋梗塞発症率は一般人口と差がなくなるほどでした。

日本のガイドラインも「10 歳前後でスタチン開始」を推奨

こうしたデータを背景に、日本の小児FH診療ガイドライン2022 は「食事・運動を指導してもLDL-C180 mg/dL以上が続く場合、10 歳を目安にスタチンを第一選択」と明記しています。管理目標はLDL-C140 mg/dL 未満です (J-AThero)。成人版ガイドライン(2022 改訂)でも「診断がつきしだい高強度スタチンを開始し、50%以上の LDL 低下、もしくは 70 mg/dL未満を目標」とされ、必要に応じエゼチミブやPCSK9 阻害薬を重ねる段階治療が示されています(J-AThero)。

家族みんなで守る――カスケードスクリーニング

FHは親から子へ50%の確率で受け継がれる遺伝性疾患です。ひとり見つかったら血縁者を順番に調べる「カスケードスクリーニング」を行うことで、未発見のご家族を救えます。ガイドラインはこの家族調査を “必須” と位置づけており、早期治療によって家系全体の心臓病リスクを大幅に減らせると強調しています(J-AThero)。

よくあるご質問

Q:薬は一生ですか?
A:体質は変えられませんが、薬を続けることで「普通の人と変わらない寿命を得られる」ことが大規模研究で示されています。副作用が出た場合は量を調整するか別の薬に替えることで対応できます。

Q:食事や運動だけではダメですか?
A:大切ですが、FH の LDL 上昇は遺伝子レベルのため生活改善だけでは十分に下がりません。スタチンを併用してはじめて動脈硬化の進行を抑えられます。

まとめ――「早く始めて、ずっと続ける」それが未来への投資

 

  • 子どもなら 10 歳前後、大人なら診断されたその日からスタチンを。
  • 早期治療は 20~30 年後の心筋梗塞を 90%以上 防ぎうることが証明されています。

  • 家族にも FH が潜んでいるかもしれません。ぜひ一緒に検査を受け、みんなで将来のリスクを小さくしましょう。

 

コレステロールが気になったら、検査だけでも構いません。ご家族と一緒に早めに一歩を踏み出しましょう。お気軽にご相談ください。

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